春一番の頃を過ぎると、

「やっぱコンビニだよな」

 深夜の風も、ずいぶんとやわらかくなる。

「あら。あのにーちゃんカラシ入れ忘れてんじゃん!」

 その頃に食べるおでんが、おれは特に好きだった。

 それはそんなある日。

 自宅への帰り道、近くの公園を通っていたときのことだ。

 ふと、視界の橋に何か鮮やかな色の物が映った気がしておれは立ち止まり、

(……チューリップ?)

 よく見ずともそれは明らかに人で。

 ただ、着ていた真っ赤なパーカーのフードを見て、瞬間チューリップが頭に浮かんだ。

(女の子? こんな夜中に、こんなとこに?)

 そんな疑問がひと呼吸遅れて湧き上がる。

 あぁ、だからあんなことが先に思い浮かんだのか。

 白塗りのベンチに座った彼女は何をするでもなく、少し視線を落としたままじっと座っていた。

(こりゃ、かかわらない方がいいな)

 頭では、確かにそう思ったんだ。

 こんな夜更けにひとりで人気のない公園のベンチに伏し目がちで座ってるなんて。

 明らかに、ろくな状況じゃない。

 さわらぬ神になんとやら。

 虎穴に望んで入るほど、日常に飽きているわけでもない。

 だからおれは彼女から出来る限り距離を取りながらそこを通り過ぎようと――

「なに、してんの?」

 それはおまえだ、と胸の内で自分にツッコミ。

 日常は退屈くらいが丁度良いくらいに思ってるおれがどうしてこのとき声をかけてしまったのか。

 たぶん、あれだ。

“からし”がなかったからだ。

 そうに違いない。

 とはいえ吐いた言葉は今さら飲み込めるはずもなく。

 せめて声が届いてなければ、と一縷(いちる)の望みを視線の先に願ったものの、

「オニギリの具に唐揚げはどうかと思うの……」

 ほらみろ。

 やっぱりろくなことになりゃしない。