――パタン
桐谷慎が力なく扉を閉める。
どうして…?
どうしてしゅーちゃんを思い出したの??
自分の気持ちが憎らしかった。
あのまま桐谷慎に溺れて、快感に酔いしれていればよかったじゃない。
どんなに求めてもしゅーちゃんの所には帰れない。
婚約者がいて赤ちゃんがいるしゅーちゃん。
しゅーちゃんはきっと優しくて子煩悩なパパになる。
定時には帰ってきて子どもをお風呂に入れて。
幼稚園とか保育園とかの行事には必ず高性能なビデオカメラ持参で現れるの。
“さすが俺の子~!!”とかいいながらどっちが主役かわからないほど、興奮するに違いない。
週末には必ずどこかへお出かけに連れて行ってくれるだろう。
人が喜ぶ顔を見るのが大好きなしゅーちゃんだから。
「うっ…、ひっ…。」
そんな…、あったかな家庭を壊せる??
ささやかで小さな、そんな幸せを壊す勇気がある??
無理だよ。
そんなひどいこと私にはできないよ。
どういう経緯であったにせよ、しゅーちゃんは水島さんのことを大切に思ってるんだと思う。
そうじゃなきゃ、しゅーちゃんは付き合わないしHもしない。
好きでもない人と付き合えるほど器用じゃない彼だもの。
いつだってまっすぐで正直なしゅーちゃんだから。
関係を持った…ってことは惹かれたんだと思う。
水野さんに何かを感じたんだと思う。