カツーン。



遠くで聞こえるビリヤードのボールの音。




祐吾さんが去ってから。

私たちは何も言わずに目の前にあるキスチョコとビールをただ見つめている。







“言わずに”

じゃないかな。

きっと何も“言えなかった”んだ。








ただ私たちはお互いが好きで。
倫理なんて無視していいくらいに好きで。



私たちはそれさえ伝えればお互い幸せになれると信じてた。







ねぇ、しゅーちゃん。

私たちはなんて幼かったんだろうね。

好きな気持ちだけでどこまでだっていけると思っていた私は…



どこまでも子どもで幼くて。






祐吾さんが言ってくれた真実に気づかないフリをしてた。







きっと…しゅーちゃんもそうなんだ。







こちらを見ずに、何かを考えこむように一点を見つめるしゅーちゃんを見て…。






そう…思った。






楽しそうに笑う恋人たちの声。

クールに響くシェーカーの音。







その全てが遠く聞こえて、現実味がなくなって来たとき。








「伊織。」







ふいに。

しゅーちゃんが私の名前を呼んだ。