薄暗く昼間の雰囲気とは違う
様子を宿した社長室に
甘い吐息だけが微かに響く。

「…っ…はぁ」

深く重ねた唇を解放すると
潤ませた瞳を櫂斗に向けて
女性は大きく息を吸った。

「…櫂斗さん、婚約するって
聞きましたけど」

大きい革製の椅子に深く
凭れるようにして座っている
櫂斗の足の間にいる女性は
抗議するように口を尖らせた。

「そうらしいな」

表情を崩さない櫂斗の胸に
女性は頭を擦り寄せる。

「…わたしは
どうなるんですか?」

「辞めるのも続けるのも君の
自由だ、好きにすると良い」

「そんな…っ…ん」

言いかけた言葉は櫂斗の唇に
塞がれて途切れる。

彼女の口から完全に吐息しか
出なくなった頃、
耳元で囁いた。

「嫌なら出ていけばいい、
…この部屋から」

そうして動く気配のない女性の
ブラウスのボタンに手を掛けた。