急にかかったブレーキに
東條櫂斗(トウジョウカイト)は
伏せていた瞳を開けた。
髪の色と同じ黒い瞳。
そのはっきりとした色が一際
彼に鋭い印象を与えている。
「どうした」
低い声に運転手は慌てて
後ろを振り返った。
「申し訳ありません。抜け道を
しようと思ったのですが……」
中年の運転手はそこで言葉を
切って前に視線を移す。
櫂斗も外の景色に目をやった。
緑の鮮やかな川沿いの並木道、
行き交うことが困難な
道の真ん中にオートバイが
停まっていた。
視線をずらすと向こう側の
車道とを繋ぐ歩道専用の細い
橋の上に、カメラを構える
女性の姿が目に入った。