一人になった私は、再び目の前のブルーネル湖を真っ直ぐに見据えた。
美しい煌めきを放つ水面を見つめていると、心なしか切ないような寂しいような曖昧な感情が心に沸き起こってくる。
…これから一体どうすれば良いんだろう。
自然と溜め息が漏れた。
乗っていた馬車が襲われ、一緒に居た従者はきっと全員死んでしまった。
ここに無理矢理連れてこられた私は、デュナミスへの帰り方も、ルナティアへの行き方も知らない。
いわゆる迷子状態だ。
でも、いつかは馬車が襲われた事に気が付いて私を捜しに来てくれるだろう。
もし見付かったら次こそはルナティアへと嫁がされてしまう。
だけど、賊を使って私を暗殺させようとするくらいだから…
ルナティアの大臣達は、デュナミス王女である私が、ルナティアの皇妃になる事に反対しているようだ。
もちろんその気持ちも分かる。
敵国の姫を自国の皇妃にしたい人なんて、そうそう居ないだろうから。
だけど。
ここで私が逃げたら…デュナミスとルナティアの間には、再び大きな戦争が起きる。
私が到着しないと平和条約が破られるという事になるのだから。
ルナティアの大臣達はそれを狙っているに違いない。
もう一度戦争になれば、きっと負けるのは私の国デュナミス。
それ以前に沢山の兵が死ぬはずだ。
お父様やミトラも危険に晒されるかもしれない。
…そうなるくらいなら。
私がルナティアへ嫁いで、毒殺でも何でもされた方がよっぽどマシだ。
それまでの生活は辛いだろうけれど…
そうすれば、デュナミスへの迷惑にはならない。

