青年は太陽のように明るい笑顔を向けてから、撫でていた手を止めた。
そのまま座り込んだままの私に右手を差し出す。
「はい、立てる?手くらいなら貸してあげるから」
私は無言でその手を取った。
何だか申し訳無い気持ちでいっぱいだったから、目を合わせる事ができなかったんだ。
青年は片手で私の体を軽々と引っ張り上げてくれる。
するとその勢いで、私から抱き着くような体勢になってしまった。
もちろん咄嗟に身を引く私。
「ご、ごめんなさい!」
男性慣れしていない自分の顔は、今頃真っ赤に染まっているのだと思う。
それに反して青年は、さっきと変わらぬ笑顔で首を左右に振った。
「謝る事なんて無いよ。加減を知らずに強く引き過ぎた僕が悪いんだから」
「な、なら良かった……です」
慣れない緊張と恥ずかしさで、どうしても声が吃ってしまう。
「そ、そういえば貴方の名前は……?」
失礼だとは思ったけど、あんな自分を見られたくなかったから話題を変えた。
「僕は……リード」
「リード……さん?」
聞いた事は無いけれど、その名前に言い知れぬ違和感を感じた。
「"さん"は要らないよ。きっと同い年くらいでしょ?」
「え、あ…はい」
最初から男性を呼び捨てをする事になれていない私には、頼りない返事しか返せない。
だって咄嗟にそう呼べるかなんて、きっと約束できないから。
そんな考え事をしていると、リードと名乗る青年が首を傾ける。
「君の名は?」
あ……ッ!!
自分ばっかり聞いておいて、先に名乗るのを忘れていた。
「ソフィーリアと申します」
慌てて名を明かす。
先に名を聞いた方が最初に名乗らねばならないというマナーを思い出し、それを忘れていた謝罪の代わりに居住まいを正した。
そんな私の様子を見ていたリードは、どこか可笑しそうに笑っていた。
「じゃあソフィ。改めて、よろしくね」
「あ…え、ええ。こちらこそ」
いきなり愛称のような名を呼ばれ、心なしか心臓が高鳴っているのが分かる。

