「大丈夫だよ」


頭の上で優しい声が響く。

その時私の心に浮かんできたのは、どういう訳か今日何度も感じた『懐かしい』という温かな感情だった。

小さな子供をあやすような優しい一定のペースで頭を撫でながら、彼は言葉を続ける。


「君を虐める悪い奴らはもう居ないから。それに…僕は、君を助けに来たんだよ」


「え……?」


青年の口から紡ぎ出された思いがけない言葉に、私はゆっくりと顔を上げて、その曖昧な言葉の意味を問う。


偶然通り掛かって偶然助けてくれたって言うのも可笑しいとは思っていたけれど…

初めから、あの賊達から私を救う事が目的だったのかもしれない。

もしそうだとしたら、どうして…?






言葉の意味を上手く解釈出来ない様子の私を見て、青年は苦笑のような笑みを顔に浮かべた。


「ほら、君が"助けて"って言ってたから」

「……あっ」

私はようやく思い出したかのように目を小さく見開いた。


そういえば賊に襲われている時、無我夢中で何かを叫んだ覚えが有る。

丁度それが助けを呼ぶ言葉だったんだ。








それなら合点が行く。


きっと彼は何等かの理由でこの森の中を歩いていて、その時偶然私の叫び声を聞いて駆け付けてくれたんだろう。


それから十数人の男達に襲われている私の姿を見付け、助け出してくれた。



…自らの危険を省みずに。