「ふぅん、意外と素直なんだ。もう少し反抗してきたら容赦しなかったのに」


ようやく賊を追い払えたというのに、どこかつまらなさそうな溜め息をこぼす青年。




彼とは反対に、想像を超える恐怖で未だに私は立ち上がる事ができないでいた。





一度は死を覚悟したのに…

もう、情けない…!!






弱い自分がどうしようもなく嫌になって、顔は自然と俯いてしまう。


気持ちが曇るだけで美しい湖の景色までも色あせて見えてきた。


だから私は光から逃げるように目を固く閉じ、自分自身を戒めるように手の平を強くぎゅっと握る。














―――その時。







突然私の頭上に降りてきたのは、誰かに頭を撫でられたような感触だった。






優しく、温かく…




まるで何かに守ってもらっているような、包み込まれるような感じがした。




目は閉じたままなのに明るい光が自ら舞い戻ってくる。


心が眩しき明かりに照らされて、曇った気持ちはすっかり晴れてしまったような気分にもなった。






幼い頃にも一度、こうやって撫でられた事があったような…



遠い過去に重ね合わせながら、私はその温かい手に酔いしれていた。