私がそんな考え事をしている内に、青年はこちらから目線を外していた。


どうやら今の標準となっているのは、さっき私に跨がっていた髭面の男のようだ。


先程同様、笑顔を顔に貼付けているが、今彼が浮かべているのは…私に向けていたそれとは天地の差。


今も優しげな雰囲気は変わらないんだけれど。



表面だけの作った笑み…

そんな表現が似合っているような気がする。






そして、青年は体勢を変えないまま髭面の男を射るような眼差しで真っ直ぐに見据える。




「…お楽しみの所悪いんだけど、その娘から手を引いてくれないかな」


特別高くも低くもない、容姿と同じで中性的な声音でそう言った。


目線からして恐らく、賊の中では最後に残った髭面の男に向かって話し掛けているのだろう。






娘って…私のこと?

ここには娘と呼べるのは私だけしか居ないから、多分そうだろうけれど…

でも、どうして…?



何故ここで初めて会った青年が私を助けてくれるのか、私には全く分からなかった。







今の今まで固まったように黙りこくっていた髭面の男は少し後退りつつも、どこか恨めしそうな目線を青年に向ける。


「貴様…何故この女を?」



何故この青年が、賊に襲われそうになっていた私を助けようとするのか。



私の内心にあった疑問を代弁してくれた訳ではないだろうが、私も青年に問いたかった質問を代わりに聞いた。





だけど青年は…



「…そんなの、お前が聞いても意味の無い事だよ」



そう言って腰の剣に手を置く。

…もしかして斬るつもりなのだろうか。



まるで時間が止まってしまったかのように私達の周りには静寂が訪れ、私は息が詰まるような思いまでを抱いた。








なんだか…怖い。

別に私へ向けられている訳でもないのに…死の危険さえ感じる。






当の髭面の男も、そのただならぬ殺気を受け取ったのだろう。


「…チッ」


低く舌打ちをしてから、暗い森の奥へと走り去っていった。