いつもの曲がり角を通り過ぎようとした時、ふいに涼しい風が香った。

ブレーキを握り前のめりになりながら止まる。

いつもの道の側にある小さな小道。
民家と民家の隙間にあるようなこの道は、夏の日射しを上手い具合に防ぐ木々が鬱蒼と繁っている。

普段は地元の人達も避けるような暗い道だったけど、滝のように流れる汗を止めてくれそうな日陰が俺を魅了した。


ゴクンと唾が喉を通る。


…暗いっつってもまだ真っ昼間だろ。


太陽の位置を確認した後、俺はタイヤの向きを日陰に向けた。

カシャンとペダルに足をかけ、思い切り踏み出す。

いつもの日向とは違う異空間の中に、俺の自転車の音は吸い込まれて行った。