花の魔女



「クラウディオ…」


ナイジェルは小さく呟いて俯くと、悲しそうに笑った。


「ええ。確かにその名は、私の夫の名ですわ」


彼女は本棚から古びた本を一冊抜きとり、パラパラとページをめくった。

一枚の写真が挟んであり、それをサイラスに手渡した。


その写真には、若いナイジェルと、ナーベルらしき赤ん坊、そしてその二人を包むようにして立っている、精悍な顔立ちの男が写っていた。


「クラウディオがいなくなってからは、国中を点々としておりました…。やっと落ち着けたと思いましたのに」


ちらりとナーベルを見て、ナイジェルの表情は暗く沈んだ。

もうこの村にはいられないだろう。


「娘さんの容態が良くなるまでは、ここを動かれないほうがよろしいでしょう。村には惑わしのまじないをかけます、あのバカ王子もすぐには出てこれまい」


サイラスがラディアンを振り返り、ラディアンはぴくりと背筋を伸ばした。


「ラディアン、その子を守れ。それからこのことは…誰にも、言うんじゃないぞ」


サイラスはラディアンが頷くのを見届けてから、外へ出て行った。



ラディアンは眠るナーベルに向き直り、黒い艶やかな髪を撫でたが、目を覚ます気配はない。



彼女の手を握りながら、いつまでもその顔を眺めていた。