花の魔女





『お前は忘れているのに?』




突然声がした。



低い、くぐもった男の声。


ナーベルは驚いて、さっと辺りを見回した。


誰もいない。


『自分のことは棚にあげて、彼を責めるのか?』


姿は見えないのに、また声が響いてきた。


ナーベルの頭の中で、その声はまるで鐘の中にいるかのように鳴り響いた。



忘れているとは何なのか。

何を忘れているのか。

この声は一体、何を言っているのか。


誰の声なのか。



頭の中の声は、ナーベルの混乱を面白がるかのように笑い始めた。


くぐもった笑い声が頭いっぱいに響いて、ナーベルは堪らず頭を抱え込んだ。



「いや――!」



突然頭を抱えて崩れ込んだナーベルに、ラディアンは驚いて剣を取り落した。