花の魔女


「麗しき薔薇、どうか……!」


まだ覚えたての魔法で、うまく扱えるか自信がない。

けれど、やらなくてはモニカを巻き込んでしまう。


懸命に念じると、薔薇はぱっと光の粒子に姿を変え、ナーベルを取り囲んだ。


ここまではいい。


問題は、ここからだ。



魔物の手が浴室の中に入り込んできた。

大きな熊のような腕に、ナイフのように鋭く、尖った爪がついている。


あれに引き裂かれるところを思うと、身震いがする。


「!」


ナーベルが恐ろしさに一瞬怯んだとき、魔物の爪がナーベルめがけて襲ってきた。

咄嗟に花を操ったが、少し遅れた。


「きゃ!」


魔物の爪はナーベルの左肩をかすめ、皮膚を裂いた。


ナーベルは衝撃で床に倒れ、右手で傷口を押さえた。


じわりと布ごしに血が滲んできて、ナーベルは痛みに顔を歪める。



(だ、だめよ。このくらいで気弱になったりしては……)



震えはじめた足に鞭をうち立ち上がろうと膝をついた、そのときだった。