割れた窓―――…
それに、この感じ。
前に一度、経験した恐怖がナーベルの全身に走り、そして覚悟した。
一瞬の間をおいて、派手な音をたてて壁が崩れ落ち、恐ろしい姿をした魔物が現れた。
ナーベルはやはりとつばを飲んだ。
「ナ、ナーベル様……なんでしょう、あれ……っ!?」
モニカが震える声で尋ねた。
魔物はこの浴室の天井よりも大きく、中に入れないようだった。
身をかがめて、黒いけむくじゃらの顔から邪悪に輝く黄色い目をギョロリとのぞかせた。
その目は大きく、顔の真ん中にひとつしかない。
「モニカ、下がっていてちょうだい」
ガタガタと震えるモニカをドアのほうへ押しやり、自分は魔物と対峙した。
逃げちゃだめ。
ここで逃げたりなんかしたら、ラディアンを救う資格なんてないわ……!
「花よ!」
ナーベルが叫ぶと、浴槽に浮かんでいた赤い薔薇たちがふわりと空中に浮かび上がった。
……ここに薔薇を用意していたモニカに感謝しなくては。



