「奥様、旦那様!」
慌てた様子で召使いが転がるように飛びこんできた。
「なんだ」
どうして私より先にアナベラを呼ぶのだか、とむくれながらサイラスは飛びこんできた召使いに目を向けた。
召使いはそんなサイラスに構っていられる余裕はないようで、焦った口調で述べた。
「南の山の麓にある集落に、魔物が現れたようでございます!」
それには、口を尖らせて拗ねていたサイラスもさっと顔色を変えた。
素早くサイラスは椅子から立ち上がり、アナベラもそれに続いた。
「ごめんなさいね。急に仕事が入ってしまったみたいだわ。私たちは行かねばなりませんから、あなた方はご自由にくつろいでいて下さい」
早口で言い終えると、先ほどの召使いの案内で二人とも慌ただしく館を出て行ってしまった。
「私にもお手伝いできることはなかったのかしら」
「やめとけ。足手まといになるだけだ」
ジェイクがリンゴをかじりながらナーベルを止めて、それもそうねと大人しくここにいることにした。
「お部屋に戻りましょうか、ナーベル様」
「ええ」
食事が終わって手持ち無沙汰にしていたナーベルにルッツが声をかけ、ルッツに連れられて部屋に戻った。



