花の魔女


「ナーベル様」


去っていく2人を見つめていると、声をかけられてはっとした。

つい、ぼんやりとしてしまっていた。


「ご、ごめんなさい。何でしょう?」


おろおろとするナーベルに、ルッツは丁寧にお辞儀をした。


「今日からナーベル様の身の回りを取り仕切らせていただきます、ルッツと申します。何かございましたら何なりとお申しつけ下さい」


「えっ?」


ナーベルは驚いて、ルッツを頭からつま先まで眺めた。


黒いスーツに身を包み、琥珀色をした瞳が淡い金髪の下から覗いている。

背が高く、すらっとした手足が憎たらしいほど長い。


ナーベルはこっそり眉を顰めた。


(私の身の回りを取り仕切るって……どこからどう見ても男の人じゃないの!)


困惑しているナーベルを、後ろから突っつく者がいた。


「少々容姿がいいからって、浮気するんじゃないぞ」


にやにやと笑うジェイクを、フィオーレがひっぱたいた。


「バカなことを言うんじゃありませんわ!」


二人のやり取りを見て、やれやれと息をついてからルッツに向き直った。


(アナベラさんが決めたことだもの。何か理由があるんだわ)


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


「お任せ下さいませ」


ルッツはもう一度頭を下げ、ナーベルたちを部屋に案内した。