花の魔女


『あなたのやれることを精一杯やるのよ。諦めてはダメ』


そう言って母、ナイジェルはナーベルの手を強く握った。


その握られた手のあたたかさが、今でもまだ残っているような気がしてならない。



思えば、ナイジェルには心配かけてばかりだった。


婚約してすぐに婚約者と共に姿を消してしまうし、戻ってきたと思えばまた離れて行ってしまう。

それも、大きな危険を背負って。


とんだ親不孝者ね、と眉を下げて、パンの包まれた布をひと撫ですると、パンを少しちぎって取り出し、口に入れた。


ほんのりと甘く優しい味が口に広がる。


(ああ、お母さんのパンの味。優しくて、懐かしくて、あたたかい味がする……)


ナーベルは目を閉じ、小さい頃から慣れ親しんできた、次はいつ味わえるかわからない母の味を、一粒の涙を流して味わったのだった。