「お母さんな、入院したから。」


いきなり言われたその一言に、
私は言葉を失った。


足が震えて、
膝からガクンと床に落ちた。


「何それ…。」


入院?
なんで?
奈津のせい?


「奈津のせいじゃないよ。奈々が死んでから、ママはずっとおかしかった。なのに、放っておいたのがまずかったんだ。結果的に奈津まで失いかけてしまった。」


パパが受話器の向こうでそう言ってるのは聞こえる。


じゃあ、奈々のせい?


「奈々は悪くない。」


私が言ったら、
パパは黙った。


私の頭を、マスターの腕がそっと引き寄せる。


「悪いとか、悪くないとかじゃないだろ?奈津、お前の母さんはさ、奈々ちゃんが大切だったんだよ。大切な子供を亡くして、心が砕けたんだ。」


胸に響く低い声。

体中に染み渡って、私を包み込む。


「…ママ…治る?」


電話の向こうのパパは、
何も言ってはくれなくて。


「治るにきまってんだろ。お前が信じてやんなくてどうすんだよ。」


言ったのは、マスターだった。


私が…信じてなくて…どうするの?

昔の優しいママに戻るかな?

奈々も奈津も大好きな、
優しいママに。


「うん。今度、…淳弥と一緒にお見舞いに行く。」


私が言ったら、
マスターは驚いた顔をした。


「小泉くん…だっけ?かわってもらえる?」


電話の向こうのパパが言った。


私はマスターに携帯を差し出す。


「はい。」


マスターが出た。


携帯から漏れてくる声に、
私は驚くしかなかった。


「奈津が君を選んだ理由はよくわかった。君なら奈津を幸せにしてやれる。」


どういう話が伝わっているんだろうか。


展開の早さについていけなくて、
戸惑っているうちに電話は終わっていた。