こうやって忘れていくんだと思った。

そんな時に思いもかけない訪問者が現れた。

「雫さん」

「遅くにごめんなさいね。上がって良いかしら」

10月も下旬、木枯らしが吹いているのに、雫さんは一人だった。

「どうぞ」

中に入ってもらった。

「何かご用ですか?」

一応お茶を出した。

「弟のことよ」

「私はもう関係ないですよ」

「そうじゃないの。匠海はあなたが好きなの。学校でもあなたを見かければずっと見つめてる。恋い焦がれるとはあのことなのね」

「それは突き放されたからの男のプライドでしょう」

雫さんは首を振った。