【短】─サクラサク─

 うわ、母さんだ。


 建物内から俺を呼ぶ母さんの声が響いて、思わず口をふさいだ。

そんな俺に気づいたのか、虫モドキはにやりと口端を吊り上げ、すばやく塞いだ俺の手にしがみつき始めた。


「……なっにすんだよ!」

 小声で怒鳴るが、虫モドキは更に面白がるように掴んだ俺の手から離れない。

「呼ばれてるんだろ!?いけよ!」

 もう片方の手でどうにかコイツを取っ払おうと振ってみたものの、全然取れない。


「もうっ、まったく……」

 そういうと、折角縁側まで来た母さんはまた中に引っ込んでしまう。


 見つからなかったことにほっと胸を撫で下ろして、塞いだ手をようやくほどく。


 もちろん、おもしろくなさそうにしてるヤツもいるわけで。


「……おい、ヒロ」

 なにかを思いついたようにひらひらと羽根をちらつかせる。

俺は目だけで返事をすると、虫モドキはにかっと笑う。