「ったく、なんでこんな時なんだよ」


　黒いスーツにネクタイと真っ白のワイシャツ。


　無駄にさえ感じる大きなこの木造の平屋には、もう主をなくしてどこかしんみりしていた。



　ジャケットのポケットから携帯の振動が伝わってきたけど、俺はあえて無視をした。

どうせアイツだ。


　縁側から古びたサンダルをひっかけて庭に出る。




　そこには大きな大きな、一本の桜の木。

この桜は家の屋根を追い抜いて、町並みを一望しているようにさえ見える。


　ピンクの花びらが、暖かい風に吹かれてチラチラと踊る中。

胸ポケットからだした煙草に手早くライターに火をつけた。


　灰色の息を吹いて、ふ、と見上げる。



　目の前にすると幼少時、この家でしばらく暮らしてたことを思い出した。


　俺は小学校までこの辺りに住んでいた。

　両親はケンカが耐えなくて、しょっちゅう離婚未遂と仲直りを繰り返すもんだから、逃げるようにこの祖父母の家に逃げ込んでた。


　淋しくも、学校のクラスメイトたちとは家が一人離れていた。

いっとくが、特に友達と仲が悪いわけではなかった。
が、待ち合わせや帰る時間を気にするたびに、お互いに無言の遠慮が生まれてしまったからだ。


だから、俺の遊び相手は大体じーちゃんだった。