「泣くなよ、知奈。俺はもうどこにも行かないから」


「悲しいんじゃなくてっ……嬉し泣きなのっ!!」


「ほら、泣き止めって」


怜人は私の涙を服の袖口で拭きながら話始めた。


「この、病院。後継者は優人だ。俺もその方が優人のためにも、病院のためにもいいと思ってる」



怜人は先ほど自分が出てきた病院を見つめていた。


その視線をゆっくり私の方に向ける。


「親父との仲はまだ険悪だし、病院なんてどうでもいいと思ってた。だけど、知奈






知奈が欲しい。ずっとそばで笑っていてほしい」



怜人は鞄の中から一枚の紙を取り出した。



「っ!!怜人……これっ……」



その紙には[婚姻届け]と書いてあり、怜人が書くべき箇所は全て埋まっていた。



「親父に『医者になる』って宣言してきた。優人にも」


そのとき、優人くんが最後に言っていた「兄さんの意見を尊重する」という意味を理解した。



「医者って本当は人の命を助けたいとか、そういう理由でなるものだって分かってる。だけど俺は知奈と結婚して、幸せな家庭を築きたい。何年先になるか分からないけど、俺が一人前の医者になったら、俺と結婚してください」