凛と咲く、徒花 ━幕末奇譚━





「ぎゃあああああああああ!!!!」



な、何?!


暗い竹薮中に突然響き渡った男の悲鳴。

私の体を触ろうとしていた男たちはぴたり、と動きを止めた。両腕を押さえつけていた力が緩む。好機。私は両肘を付き、首を持ち上げ、男たちが一斉に顔を向けた方へと目をやった。

そこには―――




「ずるいなぁ、しのちゃん。私より先に斬るなんて」

「黙れ。この状況でずるいも何もあるか!」



言い争う沖田さんと東雲さんの姿が。東雲さんのすぐ前にはうつ伏せに倒れている男。


思いも寄らない人物たちの登場に場の空気は固り、私は一瞬恐怖さえ忘れた。



どうしてこの二人が?

頬を溜まっていた涙がすーっと一筋滑り落ちる。



私……助かる、の?





「なんやねん!お前ら!」


男の一人が沖田さんたちを怒鳴りつける。大声を出してはいるものの、その様はできる限りの虚勢を張っているようにしか、見えなくもない。

その怒声を皮切りに、突っ立ったままだった男たちも二人からの攻撃に備えるよう、身構える。地に背をつけたままの口内の布を取り出していると、無理やり立ち上がらせられた。




「なんやねんって…声の威勢いい割りには、目が震えてますよ?」


にこにこ、と沖田さんは場にそぐわぬ微笑みを浮かべる。



「人に聞く前に自分から名乗れ。それが礼儀だろう」


東雲さんは不快そうに眉を寄せ、こう付け加えた。



「といっても、ごろつき共は礼儀も碌(ロク)に知らぬか?」

「貴っ様ぁ!!」



キレたのか、彼女の一番近くにいた男が腰の脇差しを抜こうと手をかけた―――より速く、彼女は地を蹴ってその男の眼前へと迫り、男の首元に腰から引き抜いた自らの鞘を宛てた。