「ちょっと、十夜!」
あたしは貴哉さんと十夜の間に入った。
十夜に背を向け、
貴哉さんに言った。
「おはようございます」
「お、紗月ちゃん!おはよ~!」
「ここで喧嘩は止めて下さいね」
あたしは笑顔で言った。
「何だよ、紗月」
後ろからキレた声が聞こえた。
あたしは十夜の手を手の甲をぱしっと叩いた。
「おっと、みんなの邪魔だな」
はははっと笑いながら頭を掻く貴哉さん。
「失礼します」
あたしは笑顔で貴哉さんに頭を下げると、
十夜の手を引っ張って走った。
周りの視線を痛いくらいに浴びながら、
あたしは玄関まで急いだ。
「十夜、どうしたの?」
あたしは十夜に問いかけた。
「何でもねぇよ」
十夜はスタスタと自分の下駄箱に
向かって行く。
「十夜…何か、ごめんね?」
「何が?」
「ん…何となく。」
「ふーん」
相変わらず、冷たい態度の十夜。
「でも、もう喧嘩しないでね?」
「分かってる」
「本当?」
「心配すんなよ。大丈夫だから」
あたしは昔から、
十夜のこの言葉で安心する。
十夜は昔から、
あたしに安心の言葉をくれる。
あたしはいつも、
十夜の一言に安心させられる。



