「紗月?」
後ろから声がして、
あたしはゆっくり振り向いた。
「何してんだ?」
そこにいたのは、さっき
すれ違った十夜だった。
「別に、あの…」
「そいつ、誰」
十夜は目で訴えかけるように、
哲を見ていた。
朝会ったことを覚えてないのか、
初めて会った人を見るような目で
哲を睨んでいた。
「この人は…」
あたしは哲を見た。
「いいよ。俺が言う」
哲はあたしの肩をそっと抱いた。
「俺は紗月の彼氏で、上坂。3年生」
そう言い終わると、
哲はあたしを見て一言。
「紗月、帰ろ」
あたしはゆっくり微笑んで、頷いた。
「紗月」
十夜に背中を向けた瞬間、
少し低めの声が聞こえてきた。
あたしは首だけ少し振り向き、
動いていた足を止めた。



