「十夜、遅かったね」
あたしは玄関で待っていた十夜の
後ろから声をかけた。
「ちょっと、な」
「何かあったの?」
詰まり気味の答えに、
あたしは少し不安になった。
「心配すんな。何もねぇ」
十夜はあたしの顔を見ようとしない。
後ろも振り向かない。
こんなのは初めてだった。
「本当に?」
気付けばあたしは、
十夜の制服の裾を握っていた。
「ごめん」
慌てて裾を離すと、
あたしは十夜の前を歩き始めた。
「お前こそ」
少し歩いた所で、
十夜がいきなり声をかけてきた。
「あいつ誰だよ」
あたしは足を止めて、後ろを振り向いた。
「何もないよ。あの人は友達」
そう言うと、十夜はあたしの横を通り過ぎた。
「ま、関係ないけどな」
「何よ、それ…」
鼻で笑いながら、
十夜はスタスタと足を進める。
あたしはその後ろを黙って歩いた。



