NOAH

こんな、異形のものを見るような目で見られたことなんかない。思わず体が固まった。

「そんな怖い顔すんなって。いいヤツラだよ。親父と違ってね。それに…」
 
シオはチラリとレイを見た。

「レイ、フルネームで自己紹介してみな」

「えっ…?」
 
いきなりそう言われ、レイは戸惑いながらも、なるべく動揺しているところは見せないよう、キリッとした表情で名乗った。

「レイ=ルヴァンニール、です…」
 
名乗ると、女性の顔からは徐々に怒りが消えていった。

「ルヴァンニール?」

「…はい」
 
苗字に反応している?
 
何故?


不思議に思ったのも束の間、女性の顔がまたパッと明るくなった。

「ルヴァンニール! 博士の息子かい!? そういえば面影がある! そうかい、博士の息子かい! 何だ、早く言っておくれよー」
 
女性はそう言いながらレイの背中をバンバン叩く。
 
何が何だか分からず、レイはただ叩かれた。

「そうかい…。あんたのお母さんには本当に世話になった。ありがとうね」
 
女性の言葉の意味がまったく分からない。
 
レイは母親のしていたことなど、まったく知らない。何をしていて、どのように死んだのかも……何も知らない。死に顔しか、見たことがないのだから…。