ＮＯＡＨ

「ここの他にも人がいるのか」

「ああ。数は多くないけどね」
　
今までの情報では、生き残りは全てドームに集められたということだった。……植物にしたって、本物がこんなにあるなんて……。
　
自分の中の知識と現実の差がありすぎて、レイの頭は混乱した。
　
生きている植物に触れると、まるで夢の中にいるような感覚に襲われた。
　
造られたものとは違う。
　
陽の光を受けて輝く姿。鼻をくすぐる甘い香り。触れた感触。水の音。

伝わってくる生命の鼓動……。それを目を閉じて、静かに感じ取る。


「あ、おばちゃん！」
　
シオの声に、ハッと目をあける。
　
奥の方に、ふくよかな色黒の中年女性がいるのが見えた。

「…ノアかい！」
　
女性はパッと目を輝かせ、シオのもとへとやっていきた。

「ああ、ああ、ノア、元気だったかい？　体は大丈夫かい？」

「ああ、元気だよ。おばちゃんも元気だった？」

「もちろんさ！　元気そうで良かった…」
　
ふと、女性がレイとヒオウに気付く。

「お供をここまで入れるなんて珍しいね…。友達かい？」
　　
「ああ。一応、息子。あまりにも世間知らずなんで連れて来た」
　
シオがそう言うと、女性の顔がサッと変わった。

「…あの、ヒューイの息子かい」
　
シオに向けていた暖かいまなざしとはまるで違う、底冷えするような鋭い瞳を向けられる。