そのレイの言葉に、ヒオウは少し悲しそうな顔をした。

「…そうね、それだけは出来ないわね。……まだ死にたくないもの」
 
勢いがなくなったので、レイは掴みかかった手を思わず緩めた。すると。
 
今度はヒオウがレイに掴みかかった。

「でもそれはアンタも一緒でしょう! 影では反抗出来ても目の前に来ると何も出来ないものね」

「…っんだとおっ!」
 
また手に力を入れ、互いに胸倉を掴み、睨み合う。

しばらくそのまま向き合っていたが、互いにそれが何の意味も成さない、時間の無駄な行為であることを悟り、ほぼ同時に手を離した。
 
ヒューイには逆らう事が出来ない。
 
逆らえば命はない。
 
──昔、正義感気取りの兄弟とその母親が、ヒューイに国政について意見を申し立てた。結果は惨いもので…。

その親子は街の広場で獣にでも食い荒らされたような、見るも無残な姿で発見された。
 
それがヒューイの仕業であるとは誰も口にしない。

しないが…。皆分かっているのだ。

これは彼の所業であり、また、自分達に「決して逆らうな」と無言で圧力をかけているのだと…。
 
 
何をしてもつまらない。こんなところで生きていても仕方ない。

そうは思っていても、やはり「死」は恐ろしいのか…。中途半端な反抗しか出来ない、レイの苛立ち。