スッと景色が変わる。
 
砂嵐から、静かな灰色の空間へ。
 
灰色の天井からは、柔らかそうな白い布が吊り下げられている。……見たことのある景色だ。
 
以前は毎朝、これを眺めていた。
 
そして、この歌声…。

「あっさあっさあっさー、朝になりましたよー、起きる時間ですよー」
 
テンポも音程もはずれた、しかし耳に心地よい声。

「はーやく起きないーとチューしちゃうぞっ……」
 
バキッ。
 
鈍い音がして、歌は止んだ。自分の腕らしきものが握りこぶしを作っているのが目に映る。

『あれ…?』
 
不思議に思っていると。

「アンタ何すんのよ! いきなり殴らないでよ! 痛いじゃないの!」
 
視界に長い黒髪の女──いや、男が入ってきた。

『ヒオウ!』
 
黎は叫んだが、陽央は反応しない。

「うるせえなー…。耳元で変な歌歌ってるからだろー」
 
黎とは別の……しかし、同じ声が聞こえた。そして、黎の目の前にスッと人が現れる。

「変な歌とは何よ! せっかく気持ちよく起こしてあげたのに!」