美しい顔に穏やかな笑みを浮かべ、サラサラの銀の髪を揺らし、黎に向かって手を差し伸べたその人は。

「…ノア」
 
『ノア』だった。
 
誰よりも美しく、誰よりも強く、そして──。
 
誰よりも愛しい。
 
『ノア』



「黎っ!」
 
ハッと我に返ると、銀色の髪の女性は消えていた。代わりに、大きな瞳いっぱいに涙を溜めた乃亜がいた。

「──乃亜……」

「大丈夫…? ごめんね…」
 
溜まっていた涙が頬を伝っていく。それが黎の頬に落ちる。
 
暖かい……涙。
 
それを感じ取ると黎は……乃亜を突き飛ばし、ヨロヨロと立ち上がった。 

突き飛ばされてよろけ、床に尻餅をついた乃亜は、突然の出来事にただ驚くばかりで……。黎を見上げていることしか出来なかった。

「…俺は…」
 
よろけて、壁にドンッとぶつかる。

「俺はっ…!」

 
黎の視界はまた真っ暗になっていった。
 
それは頭を打った衝撃のためか、それとも…。

 
倒れゆく黎を眺め、乃亜は静かに涙を流し続けた…。