「黎?」
 
表情の暗い黎に気付いて、陽央が声をかけてきた。

「えっ?」

「何暗い顔してるの。今日はちゃんと乃亜が迎えに来るんでしょう?」

「うん…そうだね…」
 
やはり暗い顔の黎に、全員が顔を見合わせた。

「今度は何よ、困った子ねえ」
 
呆れるように言う陽央に、黎は「うん…」と歯切れ悪く応えただけだった。

(なんだろう、ぼうっとしてるな…)
 
皆の声がワンワンと響いて聞こえてくる。目の前の景色も霧がかかったようにはっきりしない。頭もぼうっとしていて、眠りの中に誘われそうな感覚だ。

「…ねえ黎、あんたおかしいわよ? どこか具合でも悪いの?」
 
そう陽央に訊ねられると、黎はぼうっとしたままで気だるそうに応えた。

「うるせえな……放っとけよ……」
 
まるで別人の物言いに、全員が黎を凝視した。

「…あれ?」
 
それからすぐに霧がかった景色が晴れ、いつもの感覚が戻ってきた。

「あー……ごめん陽央、俺何言ってんだろ……」
 
暴言を吐いてしまったことに対して謝る。