「そ、そうね、今のアンタはとてもいい子だものね…」
 
陽央がそう言うので、黎は「昔の自分って?」と聞きそうになった。しかし今の陽央の勘違い振りから、聞かない方がいいような気がした…。

「アンタ達仲がいいから、てっきりもう付き合っているものだと思っていたわ」

「うん…。皆にそう言われるんだけど、そうじゃないんだ。だから、ちゃんと言おうと思ったんだけど……」

「言えないの?」

「うん。言いたいんだけど…。何だろう、うまく言えないんだけどさ、こう……言っちゃいけないような気持ちになるんだ」
 
黎の言葉に、陽央の顔色がサッと変わった。しかしそれには気付かず、言葉を続ける。

「何でかなあ…。乃亜はかわいいから、早く言わないと他の奴に取られちゃうかもしれないから、焦ってるんだけど…」

「そう…」
 
それから陽央はしばらく黙ってしまった。

「…陽央?」
 
黎の呼びかけに、陽央は曖昧に笑う。

「ああ、そう、ね…。時期が来ればちゃんと言えるようになるんじゃない?」

「そうかなあ…」

「そうよ。…もう寝なさい。明日になったらまたチャンスが来るわよ」

「うん……そうかな。分かった。ありがとう、陽央。おやすみ~」
 
と、黎は布団を被る。

「おやすみ…」