ゴクッと唾を飲み込むと、立ち上がり、恐る恐る近づいてみる。
 
二、三歩歩いたところで、ふいに少年が振り返った。
 
目が合い、乃亜は硬直する。
 
少年は無表情でこちらを見ている。乃亜はしばらく動くことも声を発することも出来なかった。
 
しばらくして。
 
フッ、と少年が表情を崩した。とても穏やかな笑みを浮かべ、乃亜に手を差し伸べた。

「……ノア」
 
どくん、と心臓が跳ね上がる。

「…え?」
 
乃亜は少年の顔を良く見た。
 
見たことのない少年だった。なのに。どうして名前を知っているのだろう…?

「あの…」
 
もう少し近づいてみようと思い、足を一歩前に出した瞬間、少年の体が崩れた。
 
バシャン、と水溜りの中に倒れてしまう。

「あっ……ど、どうしたの!?」
 
急いで駆けつけ、少年の傍に膝をつき、ハッとする。
 
おびただしい血が流れ出ていた。傷口がどこにあるのかは分からないが、大量の血が雨に流れて、辺りは真っ赤な海と化している。

「ええっ……」
 
どうしたらいいのか分からず、オロオロする。
 
そうしていると、少年の傍らで倒れていたもう一人が、ゆっくりと起き上がった。