僅かな沈黙の後、早乙女は大きくため息をついた。

「今日はここまでです…。君の頑固さには呆れる限りですよ」

「すみません」
 
聖は笑顔で謝る。今度は早乙女が苦笑する番だった。

「けれど……彼らの正体がはっきりするまでは、こちらも監視させてもらいますからね」

「分かってます。…ありがとうございます。貴方がいなかったら、今頃黎は生きていなかった」
 
二年前のあの日、大怪我を負った黎の手術をしてくれたのはこの早乙女である。聖は助手としてその手伝いをした。

「目の前に消えそうな命がある…。それを助けるのは医療従事者の務めです」
 
早乙女はいつものように優しい笑顔で言った。
 
何だかんだ言っても、この早乙女も黎達を悪い者達だとは思っていないのだろう。しかし、そうとは言い切れない部分もあると、警告してくれているのだ。

「…ありがとうございます」

聖はもう一度、礼を述べた。

「いいえ。……それから、会長から伝言です。『娘と孫に何かあったら、ぶっとばすぞ、この野郎め』」

悪戯っぽくそう言う早乙女に、聖は目をパチクリさせた後、眉尻を下げて情けない顔で頷いた。

「…はい。お義父さんにも宜しくお伝え下さい」

「伝えておきますよ。それから、これは僕から。……李苑さんに危険があるようならば……僕は君も……彼らも、許しませんからね」
 
その言葉には、聖は鋭い瞳を早乙女に向ける。

「妻と子供達の安全は、俺が守ります」