「ホント…。学校なんて楽しいのかしら」

「黎を見ていれば分かるだろう?」
 
リビングにいた聖が声をかけてくる。

「…確かにね」
 
毎朝乃亜が迎えに来ると、まるで子犬がご主人様を見つけて駆け寄る様を見ているようだ。

「少し複雑ね…」
 
陽央はそう呟くと、キッチンを出て自室へと戻っていった。

「何か事情があるんだな…」
 
雛を膝の上で遊ばせながら、聖が言った。
 
陽央は、大体のいきさつは話してくれたが、全てを語ってくれたわけではない。
 
聖が聞きたいと思っていることも、おそらくその語られていない部分にあるのだろう…。

彼が嘘をついているようには見えない。

しかし『機械の爆発』では、あんな銃創は出来ない。

自分達には想像も出来ない『何か』があるのではないか……そう思わざるを得ないのだ。

「もう少し……待ちましょう?」
 
李苑の言葉に、聖は軽く頷いた。
 
そこへ、電話のベルが鳴る。

「はい、櫻井です…」
 
受話器を取った李苑は、少し顔を曇らせた。そして、聖を振り返る。

「聖くん、早乙女さんから…」
 
その言葉を聞くと、聖の表情も一瞬だけ曇った。