口から出任せなのかと思い、わざと大学を乃亜の行ける所よりワンランク上を受験した。すると猛勉強を始め、先日、見事揃って合格した。
 
試すような事をしておいて、乃亜が合格したと聞いた時はホッとしたものだ。


 
リビングへと行くと、乃亜は陽央と話をしていた。

「そうなんだ…。寂しくなっちゃうね…」
 
どうやら陽央の全国行脚の話をしているようだ。
 
黎が入ってきたのに気付いて、乃亜はソファから立ち上がる。


「お邪魔してま~す」

「おう」
 
黎は長くなった前髪を掻き揚げながら、乃亜とは対角の位置に座る。

前髪だけではなく、後ろ髪も肩まで伸びていた。それを見て乃亜が一瞬悲しそうな顔をしたのを……黎は気付かない。

 
この時、乃亜の気持ちに気付いていたら良かったのかもしれない…。

 
互いに想いあっていても、それが通じるとは限らない。
 
二人が正面から向き合えるまで、まだまだ時間がかかりそうだ…。






──終わり──