「それでね、お願いがあるの…。アタシ、旅に出たいの」

「え?」
 
あまりに急な申し出に、聖達は驚いた。

「アタシ、これからも風景画を描いていきたいの。まずは色んなところに行って、色んなものを見てみたいの。アタシ……画家としてやっていきたい」
 
聖と李苑は顔を見合わせる。

「それは構わないが…。大変だぞ?」

「分かってるわ。聖くんや李苑ちゃんには、なるべく迷惑かけないようにするから」

「迷惑なんて、そんなことないのよ」
 
李苑は優しく微笑んだ。

「陽央くんがやりたい事なら、応援するから」
 
ね、と聖に目配せする。

「ああ…。でも定期的に帰ってきてくれ。体のことが心配だからな」

「うん、分かったわ。二人とも、ありがとう!」

笑って頷く陽央を見て、黎はふと寂しさを感じた。
 
子供の頃からいつも一緒だった。
 
喧嘩ばかりだったけれど、辛い時は慰めあったりして。こっちに来てからもずっと助けてくれて…。
 
考えてみれば、陽央とは十年もの間離れた事がなかったのだ。その彼が、旅立とうとしている。
 
置いていかれるような気分になってしまうのも無理はない。しかし、それを顔に出せないのが“黎”なのだ。