それから三十分後。
黎は、一人で病院を抜け出そうとしていた。
李苑には聖がついているし、陽央が待機してくれている。
二人とも無事だったという安堵感に包まれ、そしてリトゥナの人々やノアへ想いを馳せながら玄関前ロビーに出た。
とっくに診療時間は過ぎていたので、ロビーにはまったく人影がなかった。自動扉の向こうは、暗い闇に包まれている。
その自動扉が開いた。
開くのと同時に、小さな人影が飛び込んでくる。黎は足を止めた。
息を切らし駆け込んできたのは──乃亜だったのだ。
乃亜の方も黎に気付き、足を止めた。
しばらくそのまま時間が流れ…。
ハッとしたように乃亜が黎に飛び掛った。
「李苑さん! 李苑さんは!? 倒れたって聞いたけどっ…」
「…あ、ああ…。無事だよ…。赤ちゃんも、今生まれたって…」
「本当!? ああ、良かったっ……どうしたのかと思って……おめでとうっ!」
「…俺に言われてもな」
「あっ……ああっ!」
乃亜は黎の腕を掴んでいる事に今更ながら気付き、思い切り突き飛ばすように離れた。
気まずい雰囲気が漂う。
お互い視線を逸らし、立ち尽くす。
黎は今掴まれた腕にそっと手を添えた。こんな風に触れられる事も、もうないだろうと思いながら。
「…ごめん」
ボソッとそう呟くと、乃亜を見ないようにしながら玄関に向かって歩き出した。
黎は、一人で病院を抜け出そうとしていた。
李苑には聖がついているし、陽央が待機してくれている。
二人とも無事だったという安堵感に包まれ、そしてリトゥナの人々やノアへ想いを馳せながら玄関前ロビーに出た。
とっくに診療時間は過ぎていたので、ロビーにはまったく人影がなかった。自動扉の向こうは、暗い闇に包まれている。
その自動扉が開いた。
開くのと同時に、小さな人影が飛び込んでくる。黎は足を止めた。
息を切らし駆け込んできたのは──乃亜だったのだ。
乃亜の方も黎に気付き、足を止めた。
しばらくそのまま時間が流れ…。
ハッとしたように乃亜が黎に飛び掛った。
「李苑さん! 李苑さんは!? 倒れたって聞いたけどっ…」
「…あ、ああ…。無事だよ…。赤ちゃんも、今生まれたって…」
「本当!? ああ、良かったっ……どうしたのかと思って……おめでとうっ!」
「…俺に言われてもな」
「あっ……ああっ!」
乃亜は黎の腕を掴んでいる事に今更ながら気付き、思い切り突き飛ばすように離れた。
気まずい雰囲気が漂う。
お互い視線を逸らし、立ち尽くす。
黎は今掴まれた腕にそっと手を添えた。こんな風に触れられる事も、もうないだろうと思いながら。
「…ごめん」
ボソッとそう呟くと、乃亜を見ないようにしながら玄関に向かって歩き出した。


