陽央は頷いた。手術室の中へ消える聖の姿を見送り、黎に目をやる。
そして看護師長に雛を預け、この場を離れさせると、黎の頭をガシッと鷲づかみにして椅子に押し込んだ。
「座ってなさいよ」
と、自分も隣に座る。
「…ここに来てから、もう二年以上経ったのね」
コツン、と壁に頭を持たせ掛け、陽央は話し出す。
「でもあんたの時間は止まったままだった。記憶がなかったからね。仕方ないんだと思ってた。何もかも忘れて、新しい人生を生きるのもいいのかなって。
でも、本当はそうじゃなかったのよね。忘れてなんかなかった。……だから、乃亜に“好きだ”って言えなかったんでしょう? ノアに負い目があるから。ノアだけを愛していたから」
「……」
「逆に言えば……乃亜も愛してしまったから」
黎の瞳が大きく見開かれた。
「ノア以上に愛せる人物を、無意識に排除しようとしてたんでしょうね」
「そんなことっ…」
「あるんでしょ?」
ギロリと睨まれて、グッと言葉を飲み込む。
「乃亜に惹かれていくあんたを見ているのは結構辛かったわ。本当に大事なことを忘れてしまったんだと思って…。
でもあんたが乃亜に告白できないって言った時……思ったの。黎は、忘れてなんかいない。ずっと罪の意識に苛まれて生きてるんだって」
陽央はそっと黎を見た。彼はギュッと唇を噛んで、目を背けている。
「ねえ。いつまでそうやっていればいいの? ノアが……あんたに生きていて欲しいと言った言葉を、いつになったら受け入れられるの?」
「たとえノアがそう望んでも、俺は…!」
そして看護師長に雛を預け、この場を離れさせると、黎の頭をガシッと鷲づかみにして椅子に押し込んだ。
「座ってなさいよ」
と、自分も隣に座る。
「…ここに来てから、もう二年以上経ったのね」
コツン、と壁に頭を持たせ掛け、陽央は話し出す。
「でもあんたの時間は止まったままだった。記憶がなかったからね。仕方ないんだと思ってた。何もかも忘れて、新しい人生を生きるのもいいのかなって。
でも、本当はそうじゃなかったのよね。忘れてなんかなかった。……だから、乃亜に“好きだ”って言えなかったんでしょう? ノアに負い目があるから。ノアだけを愛していたから」
「……」
「逆に言えば……乃亜も愛してしまったから」
黎の瞳が大きく見開かれた。
「ノア以上に愛せる人物を、無意識に排除しようとしてたんでしょうね」
「そんなことっ…」
「あるんでしょ?」
ギロリと睨まれて、グッと言葉を飲み込む。
「乃亜に惹かれていくあんたを見ているのは結構辛かったわ。本当に大事なことを忘れてしまったんだと思って…。
でもあんたが乃亜に告白できないって言った時……思ったの。黎は、忘れてなんかいない。ずっと罪の意識に苛まれて生きてるんだって」
陽央はそっと黎を見た。彼はギュッと唇を噛んで、目を背けている。
「ねえ。いつまでそうやっていればいいの? ノアが……あんたに生きていて欲しいと言った言葉を、いつになったら受け入れられるの?」
「たとえノアがそう望んでも、俺は…!」


