NOAH

「…なんで…なんでだよっ…!」
 
顔をクシャクシャにして叫ぶ。

「だって危険な状態なんだろ? 李苑ちゃんも赤ちゃんもっ!」

「…そうだな」

「だったら俺を責めろよ! 俺のせいでこんなになったんだ! 俺のせいなんだ! 何で止めたんだ……俺なんか……あの時、死んでれば良かったのに……!」

「黎っ!」
 
陽央が立ち上がった。
 
と同時に、パアン、と頬を叩かれた。──叩いたのは聖だ。
 
ハッとして聖を見る。
 
聖はジッと黎を見据えていた。その瞳に静かな怒りの炎を宿して。

「…黎」
 
感情を出さない、静かな声。

「お前は、いつまで“ノア”から逃げるつもりだ」

「──」

(逃げる…?)

「大切な人を失ったらどんな気持ちになるか…。それはお前が一番、解っているだろう? ……そんな風に、投げやりになるんじゃない……」

「聖くん…」

その時、手術室の扉が開いて、中から青い予防衣をつけた看護師が出てきた。

「櫻井先生、中へ!」

「──はい」
 
聖はチラリと黎を見て、それから陽央に目をやった。

「頼む」

「うん」