NOAH

(危険……)
 
黎の顔は蒼白になる。
 
何ということをしてしまったのだろう。後悔の念だけが胸の中に渦巻いた。

 
 
それから、どのくらいの時間が流れたのだろう。

突っ立ったままの黎の横を、スッと聖が通り過ぎた。

「あっ…」
 
声をかける間もなく聖は看護師長の元へ行く。
 
師長の話を何度か頷きながら聞いていた聖は、話が終わると大きく息を吐いた。
 
そして、黎を振り返る。
 
黎はビクッと体を振るわせた。

「…黎」
 
思いの外、静かな声で名前を呼ばれる。

「座ったらどうだ?」
 
しかし、黎は動く事が出来ない。そんな彼を見て、聖はまた溜息する。

「そこにいると邪魔だ」
 
と、黎のところまで歩いてきて、腕を掴むと陽央達のいる長椅子まで引っ張った。
    
しかし黎は椅子に座ることも、聖の顔を見ることも出来なかった。

「…ごめん」
 
喉の奥から搾り出すようにしてやっと声を出す。

「ワザとじゃないんだろう」

「…!」
 
黎は顔を上げる。
 
こんな時にまで、思いやる言葉をかけてもらえるなんて思わなかったから。