「ただいま…」
 
雛とともに家の中に入った李苑は、何となく重い空気を感じた。雛の靴を脱がせ、手を繋いでリビングへと向かう。
 
中は静かだった。
 
ダイニングのテーブルの上に、乃亜のために作っておいたシュークリームがそのまま置いてあった。それを見て、ひどく胸騒ぎがした。
 
雛が手を離し、リビングにある本棚から絵本を取り出すのを横目で見ながら、キッチンへと足を踏み入れた。
 
そこには、黎が立っていた。
 
こちらに背を向けるような感じで。
 
李苑は名前を呼ぼうとして──キラリと光るものを目にした。果物ナイフの刃が黎の手首に押し当てられている。

「──黎くん!!」
 
バッと黎の右手を掴み、上にねじ上げる。その衝撃で黎の手の力が抜け、カランカランと音を立ててナイフは床に落ちた。

「…離せ!」
 
ナイフの落ちた音で我に返った黎は、力一杯李苑の手を振り払った。