「ん?」
 
足音がしたような気がして、陽央は顔を上げた。
 
黎の代わりに花壇の手入れをしていたところだったのだが──人影は見当たらない。

「気のせいかしら」
 
と、また花壇に目を向けた時。
 
庭に白いワンボックス車が入ってきた。

「あら、お帰りなさい」
 
立ち上がると、運転席から李苑が降りてきた。

「ただいま」
 
李苑は助手席に乗っていた雛を下ろし、両手に重そうな買い物袋を持った。

「ああん、またそんな重い荷物持って! 買うものいっぱいの時は呼んでって言ってるのに~」

「ごめんなさい、こんなに買うつもりじゃなかったんだけど、つい…」

「それはアタシが運ぶから、李苑ちゃんは雛ちゃんと家に入ってて! この間も聖くんに怒られてたじゃない。入院するところだったって…」

「…そうね、ごめんなさい」
 
申し訳なさそうに謝る母を見てか、雛もちょっぴり泣きそうになりながら、

「ごめんなちゃい…」
 
と謝る。

「ププ、雛ちゃんを怒ったんじゃないわよ」
 
笑いを堪えながら、陽央は手洗い場へと向かう。

「それはそこに置いといてね! 雛ちゃん、お母さんを家に連れてってね!」

「はい!」
 
頼まれて使命感に燃えた雛は、李苑の手をグイグイ引っ張って家の中へ入っていった。