「ったく…。これで静かになるな…」
 
そう、静かに。
 
もう二度と乃亜がここに来ることもないだろう──。


パタリ、と床に雫が落ちた。

パタリ。またひとつ、落ちた。

「──っ」
 
後ろによろけて、壁に背を預ける形となる。

  
  
何故こんなものが?
 
あんな、華のように笑う少女を傷つけておいて、こんな涙を流す資格など無いのに。


(俺は〝ノア〟だけを愛してるんだ)

 
その想いだけは永遠に変わってはいけないのだ。
 
彼女を失った悲しみを。
 
愛した記憶を。
 
ずっと、この胸に抱いていなければ──。

 
それでも流れ落ちる涙。
 
その意味を、知ってはいけなかった。
 
二度と掴む事の叶わない華へ募る思慕を、断ち切らねばならなかった…。