NOAH

「うん、大丈夫…。赤ちゃんがいっぱい動いたの。乃亜ちゃんに頑張れ~って言ってたのかな?」

「つばしゃくん、がんばれ言ったの?」
 
お腹の子供は、健診で男の子だと判明していた。名前ももう決めてある。

「そうね。皆、元気になりますように、って」

「つばしゃくん、えらいねえ」
 
雛はニコニコしながら、小さな手で弟のいる母のお腹を撫でてやる。その光景に、李苑はひと時の幸せを感じるのであった。





外に出た黎は、当てもなくブラブラ歩いた。その僅かな時間の間にどんどん日は暮れ、辺りは暗闇に包まれる。
 
眼下に広がる街は次々に明りを灯し、地上は星の海と化した。
 
冷たくなった風を受け、僅かに首を窄める。
 
 
──許されたいわけじゃない。
 
でも、あの暖かい場所にいると、心が崩されそうになる。
 
何事もなかったかのように、いつもと同じに接されて。
 
今までと同じに自分を受け入れてくれている人達。それに応えそうになる。
 
それが辛かった。
 
楽な方に逃げたら、全てを否定するようで。
 
彼女の存在すら、無かったことになりそうで。
 
 
いっそ、責められた方が良かった。
 
お前はここで、幸せになる権利などない、と。
 
リトゥナの人々やノアと一緒に、滅びるべきだったのだ、と。

 
誰か。
 
そう、言ってくれ…。