画用紙いっぱいに顔が描いてあり、その周りには赤や黄色で花らしきものがたくさん描かれていた。

「これがチュリプーで~、これがしゃくりゃで~、これがひまわい! れいくんお花のおせわしてるの~」
 

記憶がなくても植物には興味があった…。
 
良く花壇の手入れをしたり、植物園に出かけていたのを雛は見ていたのだ。
 
無垢な笑顔に、思わず表情を崩しかける。が、そこに乃亜が来たので、パッと身を翻し、玄関へ向かった。

「あっ、黎ってばー!」
 
バタン、と扉の向こうに黎は消えた。

乃亜はふう…と溜息をつく。

「…うるさくし過ぎるかなあ…」
 
落胆の色を隠せない彼女に、李苑は優しく微笑みかける。

「ありがとう、乃亜ちゃん。黎くんには……もう少し時間が必要なのかもしれないわね」

「はい…」
 
しばらく沈んでいた乃亜だが、「よしっ」と頷いた。

「李苑さん、私、頑張ります! 明日も来ます! それじゃあ!」

「はーい」

「のあちゃん、バイバーイ」

「バイバイ、雛ちゃん」
 
 
笑顔で乃亜を見送った後。
 
李苑は顔を歪めた。

「いたた…」
 
と、大きくなってきたお腹をさする。

「おかあしゃん、ぽんぽいたいの?」
 
雛が駆け寄ってきて、心配そうに李苑のお腹に手を当てる。