「れーい、おーきーてー!」
 
容赦なく体を揺さぶられる。
 
はじめは無視を決め込んでいた黎だが、あまりの喧騒にガバッと飛び起きた。

「やーっと起きた!」
 
ぶう~っとむくれながら、目の前の少女は言う。そして、次の瞬間にはパッと明るい笑顔を見せる。

「おはよう! 黎!」

何の悪びれた様子もない乃亜は、制服姿だ。きっと学校帰りに直接ここに来たに違いない。

「やっと中間終わったんだ。しばらく来れなかったから寂しかったでしょ? はい、これね、テストの問題。気分良くなってからでいいから提出しろって先生が。あとね、これが……」
 
まだカバンをガサガサやっている乃亜を尻目に、黎は立ち上がり、部屋を出て行く。

「あっ、ちょっと、まだ渡すものが──」
 
追いかけてくる乃亜。
 
黎は無視して、階段を下りていった。
 
そして、この二年で染み付いた癖なのか──リビングへと入っていく。
 
リビングには李苑と雛がいた。
 
テーブルの上に散らばった色とりどりのクレヨンと白い画用紙。

「できた~!」
 
雛が嬉しそうに一枚の画用紙を持ち上げた。

「上手に出来たわね、雛ちゃん。……あら、黎くん、おはよう」
 
李苑はにっこりと笑う。

「ちょうど良かったわ、今雛ちゃんが黎くんの似顔絵を描いていたのよ。見てやってくれる?」

「れいくん、みて~! ひなね、れいくんかいたんだよ!」
 
雛はその絵を持って、黎の元にやってくる。