結局、この世界ではどこにも行き場はなく。
 
無理やり陽央に連れ戻された黎は、櫻井家の自室に閉じこもった。
 
時々陽央や聖が様子を見に来てくれるが、一切言葉は交わさなかった。

李苑が食事を運んできてくれても、それに手を出す事はなかった。
 
 

浅い眠りについても、見る夢は同じ。
 
愛しいノアの最期。

『──……』
 
何かを訴えるような、そんな瞳。

(何て言ったんだ)
 
ノアは、何を伝えたかったのだろう。

薄く開いた唇で。

何か、言葉の形を作っていた。

(一緒に逝こうって……言ってくれよ……)

 

そうして、目が覚める。
 
頬を伝う涙は、枯れる事がない。

 
そんなことを何回も、何回も繰り返した。徐々に“現実”がなんなのか、分からなくなるほどに。

 
そこに、夢見心地の世界にいた黎を引っ張り出す声が響いた。

「まーた寝てる~!」
 
バタン、と勢い良くドアを開け、部屋中にキンキン声が響いた。

「もう夕方だよ! 起きて起きて。カーテンも引きっぱなしじゃ余計に気分落ち込んじゃうよ~?」
 
と、シャッとカーテンが開け放たれる。
 
傾きかけたオレンジの太陽の光が、部屋の中いっぱいに飛び込んできた。